それから、私達は繰り返しキスをした。深い意味などなくて欲しいからそうしただけで、するとアナタも同じ様に私を欲するから、繰り返し。繰り返し。


「おぉ主よ、この世にうまれた。これが喜びだというのですね。しかしならば主よ、これは等しく哀しみでもあるということを、貴方はなぜ説かずにいたのか。」

街頭で声を張り上げる若者を蔑んだ目で私は見る。其処でやる必要性を考えろ。貴様の出した2歩先も読めないその結論は、ほら、死を招いた。
ガスライトが淡くこの霧の街を燻らせていた。

「思想は統一されるべきである。個は全へと昇華するべきである。」

無神論者はこの地球上にいなくとも、しかし人の数だけ神はいる。信じているその心には、此方から覗けば虚像に見えるとも、しかしそちらから見れば或いは其処に存在するのだ。それが例え、孤独であることを認めることでも。認めぬままに何かを失うことに意義も意味もない。この霧で包まれた街は、それを最後に私に教えてくれたのだ。

「あぁ、主よ。私はアナタを愛しています。あぁ、あぁ、主よ。人である喜びを。与えてくださってありがとう。」

定刻を少し過ぎた頃、ホームへと蒸気機関車が駆け込んできた。私は最後もう一度だけ振り返り愛を伝え、それに乗り込んだ。遠くで鳩の群れが飛び立った。


ライカ・ライカ
(愛のようで愛じゃない、真実のアイ)