「何を探しているの」
暗闇に声が滲む。その声はとても冷たく感じた。
ボクは何も見えないまま、手探りで地べたを這いつくばっている。
「わからない。教えてよ。」
闇に奪われた視覚は、何も映し出すことはない。かわりに他の感覚が研ぎ澄まされ、肌がひりひりと痛い。突き刺す様な冷たさが体に広がっていく。さて、いよいよここがどこだかわからない。ボクは何故ここにいるのだろうか。
「欲しいものはなに?」
逡巡する。欲しいもの。それは酷く曖昧で雑多で、そして抽象的な言葉だった。目に見えて形として残るものも欲しいものになるし、もっと抽象的な他者に認められたり或いは地位を得ることも欲しいものに区分されるだろう。やはり簡単に答えは選べなかった。
「ない、です。」
小さく答えた。直ぐに声は返ってくる。
「そ。君はやっぱり嘘つきだね。」
「え」
思わず声が出た。投げ付けられた言葉には、鋭利な刺があった。或いはボクがただ単にそう感じてしまっただけなのかもしれないが。
嘘をついたつもりはない。言うならば、選択を見送っただけ。それがボクという人間の解答。
だというのに、声はそれを真っ向から否定した。
「そうやって口先だけで生きてきたんでしょう。どちらかを選ばなければならない時も濁して濁してドブ水みたいにして、選択を悟られないように生きてきたのでしょう。仕方がないよね。だって、そうしなければーーー。」
声はそこで途切れた。
触れてはいけない。感覚が更に研ぎ澄まされて、呼吸する自分の息遣いさえも煩わしい。そしてボクは、何も見えないまま再び声を発した。
「それは、随分と偏った見方だね。まるでみてきたかのように。ねぇ、アナタは神様でしょうか?もしもそうならば、ボクをもといた場所に返してください。ここは、酷く寒いし、痛い。」
懇願する。声は答えない。
そしてボクは、もといた場所等わからないのに、その場所を求めた。
そうすれば、「欠落」した自己を取り戻せると考えたからだ。話す声は、心臓を圧迫し、ギリギリとボクを苦しめる。あぁ、痛い。痛い。痛い。
「……本当に、言っているの。愚かだね。でも、それは出来ない。決まりだから。」
音がなくなった。それでも、声が聞こえる。
耳の奥が焼けるように熱い。痛い。だが声はでなかった。出ないようにした。声をあげれば痛みが更に増す。そうなってしまっては、いけない。耐えられない。堪えられない。けれど、不可思議なことに、ボクは、まだ、何かを、言おうとした。言った。言い放った。
「ボクは、間違った事などないよ。」
「本当に?」
「ボクは、常に間違っていなかった。」
「本当に、心から、そう思っているの。」
「ボ、クは、まち、間違った事などない、、よ。」
「…」
「ボクば、まぢkがtらsことなdl」
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「何を、探しているの」
暗闇に声が滲む。その声はとても冷たく感じた。
ボクは何も見えないまま、手探りで地べたを這いつくばっている。
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