ごり押しでナイト

自称音楽家(SETUZITU)ワタクシ清野の活動情報や雑談,その他諸々晒していくぞのコーナー♪♪♪
皆様,何卒よろしくお願いいたしもぉす!!!
雨降の楯という創作グループ立ち上げました。 僕のお話「Synchronized」がオーディオドラマとなりました! こちらから是非ご覧下さい→http://ametate.cranky.jp

2014年10月

薄く世界を伸びていく灰褐色の煙は、芦屋昴の瞳に映る景色から色という色を奪っていった。
いや、別に彼に限った事ではない。
生物の音が聞こえなくなる季節、冬がもうすぐ始まるからである。
木々からは緑葉が抜け落ち、彩っていた朱色や黄色だった葉も、枯渇し大地に霧散している。
色素を失った世界は、外気温と相まってより鋭く肌を突く。
そろそろマフラーが恋しくなってくる頃だ。

この冬を越えれば、卒業である。
惰性で過ごしてきた1、2年を振り返り、自分にはこの学び舎での思い出が極端に少ないと昴は思った。
自宅から徒歩10分の距離を、ゆったりと歩いて登校し、うたた寝をしながら授業をこなし、下校後はバイト。
何か欲しいものがあるわけでも、遊ぶ金が欲しいわけでもなく、ただ暇を埋める為の怠惰な時間。
下校中、グラウンドから聞こえる号令や管楽器をチューニングする音を羨ましいと思ったこともあった。

けれどそこに、自分の居場所はない。

気が付くと昴はやりたいことも生きがいも、欲しいものもなにもないまま生きてきた。
そんな自分の十数年を振り返るようになっていた。


「よっす昴!今朝も辛気臭いねぇ。」


乾いた空気を引き裂いて、声の主は昴の肩を叩く。


「痛っ・・・。おはよう、星野。君は朝から元気だね。」


「ふっふーん。それが私の唯一のとりえだかんね!教室まで一緒に行こ?」


「…うん。」


星野朱璃。昴のクラスメイトである少女。わざとらしいくらいに明るい笑顔が、名を体で表していた。


「星野は、結局進路どうしたの?」


「んーとね、結局大学はいかない事にした!やっぱりお金がねぇ……今さら就職もあれだから、バイトしながら自分探しって感じかなぁ。昴は?」


「僕……は…。僕は…どうするんだろう…。」


勉強はしていた。元々出来る方でもある。
ただそれだけ。
明確な目的や理由もないまま、両親に多額のお金を払ってもらうのは少し気が引けた。
だからと言ってこのまま就職というのも、違う気がする。
どんな仕事にするべきなのか、一体何が自分に向いているのか。
何も解らなかった。
将来の事など、考えた事もなかったから。


「あら?私ひょっとしてアカン事聞いちゃった?あ、ご、ゴメン!!ごめんなさい!!わ、私でよければ相談のるよ!?ね、元気出そっ?」


「…ぷっ、なに慌ててんのさ。」


「だ、だぁーってぇー!!もう、人をおちょくって楽しいのかね君は!!」


「ははは。ゴメンゴメン。」


ホンの数分で様々な表情を見せる朱璃を見て、昴は沈んでいた気持ちが、幾分か楽になっていることを感じた。


「あ、でも。もし本気で僕なんかに付き合ってくれるなら、本当に相談、乗ってほしいかも。」


「ひょ?……お、おおぉおう!!い、いいさっ、いいともよ!!任しとけってんだい!!……じゃあ善は急げってことで……今日放課後、行っちゃう??」 


「はは、本当に急だね。無理しなくてもいいから。」


昴は、言ってから後悔した。
こんなことを言って彼女を困らせたところで、時の流れは止まらない。
何も変わらないのに。


「無理なんて!!してないし!!無理じゃねーし!!ただマックは奢れし!!」


「……いいけど………いいの?」


「……いーよ。どーせヒマだったしねー。」


頭の後ろで手を組んで、朱璃がにかっと笑う。色を失っていた筈の世界が、色付いていくのを感じた。この色の名前を、昴はまだなんと言うのか知らなかった。





今朝そんなことがあったものだから、昴は少しだけ浮き足立っていた。時代遅れのブラックボードを眺めながら、補足をノートの端に書いていく。

彼女と何を話そうか。そればかりを考えて。


「ご、ごめんなさい!!」


昼休憩、いつもは聞かない流行りの曲を聞きながら昼ごはんを食べていると昴の元に朱璃が現れた。

両手を顔の前で合わせて謝罪の言葉を告げる。
あぁ、僕なんかが調子にのって高望みをしたせいで、彼女に不快な思いをさせてしまった。


そう思った昴は音楽を止めイヤホンを耳から取る。それからゆっくりと息を吐き、声を作った。


「あれ?ホントに今日行くつもりだったんだ?それなら全然大丈夫だよ。言ってみただけだから。また今度、機会があればね。」


「へ?な、なによそれ!ちょっとー!!……まいっか!!じゃあ今度ね!」


「……うん。今度。」


馬鹿らしい。昴は椅子に座ったまま大きく伸びた。勝手に盛り上がる自分も自分だが、毎度その行動で一喜一憂してしまう。もう、いい加減に、気付けよ。
昴は思い出した。
自分はこの世界の一部になんて、なれていやしないのだと。

誰かに何かを期待した、その一瞬を悔いる。
そして恥じた。
繰り返す。



朱璃はそれから週に一、二度、昴に放課後の予定を聞いてくるようになった。その度に昴は、バイトだとか家の用事だとかと言って、断った。果たしてその中でどれほどが真実であっただろうか。昴自身もよく覚えていなかった。


そうしてそのまま、朝の数分間を共にする毎日が続いた。気が付くと、本格的に白い粉がしんしんと音をあげて降り積もる季節へと移り変わった。

冷たく濁る心臓が、少しずつ動きを止めていくように、昴は黒いマフラーに自分の顔を埋め、俯き歩く。


「なんかさ、ここんとこずっと忙しいね。……なんかあった?」


「え?……んーほら、もうすぐクリスマスシーズンだからさ、バイトのシフト、ちょっと多いんだ。お願いされちゃって。」




嘘を吐く。
嘘を吐く。
嘘を、吐く。




そうする度に心が痛むのを感じる。昴は自分がどうしてこんなにも頑なに朱璃を拒絶しているのかわからなかった。

きっと彼女は優しい。
それだけじゃない。
自分の周りにいる人は皆暖かい人ばかりで、自分だけが愚かで矮小で浅ましい人間なのだ。


そうだ、これは嫉妬だ。
同じように生きている筈なのに。
なぜ自分は誰かと同じになれないのだろうか。






師走も中頃を過ぎれば、いよいよ人々は賑わい出す。
自分の宗教でもないのにクリスマスを切望し、延々続くというのに年を忘れるだとか言って馬鹿騒ぐ。


昴は彩られているその街中で、唯一つ自分だけが灰褐色でいる様に感じた。まるでグラスに注がれた水と、その縁で結露した水滴の様に、そこには大きな隔たりがあると感じたのだった。




その喧騒の中に混ざることの出来ない体を、より一層小さく小さく丸まって、俯いて。道の端の方を選んで歩いた。





「ちょーーーーっぷ!!」




聞き馴染んだ声と同時に昴の後頭部を鋭い衝撃が襲う。後を追うように鈍い痛み。


「---いった……」


「こら!!ウソつき!!何処へ行く気だ!!」


頭をさすりながら振り返ると朱璃がいた。仁王立ちで腕を組んでいる彼女は、珍しく怒っているようだった。


「……あ………い、いや……。」


「失礼ながら後をつけさせてもらったわ。君のバイト先は3個前の交差点を左じゃあなかったっけ?………なにかいいわけは?」


「………ありません。ごめんなさい。」


昴は驚きや反省や後悔よりも、ここに朱璃がいるということがただ嬉しいと感じていた。軽く謝って薄く笑うと、朱璃は呆れた様に息をこぼして、笑った。


「……ふぅ、ったく。まぁいいわ。私としてはこっちのがとっても都合がいいかんね。ほら、行くよ。」


「……えーーっと?」


差し出されたその手の意味を、最初昴は理解出来ず曖昧に笑った。


「いいから!!ついてこいこんにゃろー!!」


強引に右手を繋がれ、グイグイと、又はズンズンと朱璃は進んでいく。
こちらは振り返らない。
彼女の耳は真っ赤に燃えていた。


繋がれた右手から伝わる彼女の温もり。
まるで心まで溶かされていくようで、昴はこの時間が、ずっと続けばいいとさえ思った。
思ってしまった。
なんて、暖かい。


彼女との接点から、世界が輝いていく。


ちょっと言い過ぎだろうか。


そう、一人考えて笑った。


「今、なんか、言った!?」


彼女の息は乱れていた。


「ふふっ、いーや!なんでもないよ!!」





何処までも行こう。

何処までも行くんだ。

ふたりで。
そんな夢を。
彩られた明日を想像した。








「だーーーーーっ!!やっとついたぁ!!」


「はぁ………はぁ。あし、速いんだね………」


「昴が、遅いの……」


走り走って、辿り着いたのは学校から少し離れたところにある裏山だ。一体此処に何の用があると言うのか。



「っはぁ……ね、ねぇ……どうして、僕をここに…」


昴はまだ息が整わない。山と行ってもそこまで険しくはない。中腹にある少し拓けた場所で、二人は服が汚れるのもいとわず、崩れ落ちていた。


「なっさけないなぁ……まぁ見てなよ。そろそろだから」


「………?」


気が付けばもうすぐ陽が落ちる。相変わらず鈍色の空も、ずぅっと向こう側は少し橙で、こちらに向かって藍色から黒色へと滲み広がっていた。
1日の終わりは、必ずそこにある。
漸く色を得たこの世界にも。確実に。

それでも昴は、この時間を愛しいと思った。


空に星が瞬いた。
小さな、小さな光。


「一番星…だね?」


「いーから黙って見る!!」


「は、はい……」


いつの間にかすぐ隣で腕を掴む朱璃の熱を、匂いを感じる。自分の鼓動が聞こえはじめたところで、昴は自分が緊張している事を自覚した。


いつの間にか空には砂をばらまいた様に、星が煌めきその存在を主張していた。


「き、きれいだね。」


「ふふーん、でしょでしょ??しかし!驚くのは早いぞ若人よ!」


「同い年だし……星野早生まれだからどっちかって言うと僕のが歳上……」


「しっ!!ほらほらみてろみてろー……」



人差し指を立てて静かにしろと制止される。
仕方なく昴は黙り、そして空を再び見上げた。





星が、一つ、右から左へ。


後を追う様に一つ。また一つ。


「すごい…」


「ね、凄いよね」


夜空が一層明るく輝いて、それは街中のどのイルミネーションよりも美しい。
山の向こう側へ落ちていった星は霧散し、藍色に溶けていく。


ーーー誰かの願いを孕んだ星が、願いの重さで落ちていく。
落ちた先、地平線の彼方で、星はその願いを神へと届けるのだ。

まるで神話の世界だ。
普段ならそう一蹴してしまう様な空想も今日ならば真実足り得るのではないか。
昴は静寂の中確かにそう思ったのだ。


「……星と星の距離ってさ、あんなに近くで寄り添っている様に見えるのに、実は想像も出来ないくらい離れててさ。」


「…うん。」


「昴はだから、星みたいだなって。思った。」


「……うん。」


ぽつりぽつりと呟きを落とす朱璃の言葉に、昴は一つ一つしっかりと頷いた。
昴の腕を握る力が、少しだけ強くなる。


「……でもさ、人間ってお星さまじゃないから。あんな風に輝けなくても、誰かの願いを、叶えてあげられなくっても。こうやって……一緒にいられるよ?君の暖かさを感じられるよ?君の願いを聞いてあげられるよ?一緒に…生きていけるよ。だから…さ。」


「……うん。」


「……それとも、昴は、私じゃ嫌だ?私じゃ君と、釣り合わないかな?」


「ううん、嬉しいよ。とっても。ありがとう。」





腕を組んだまま、いつまでも夜空を見上げた。
信じても、いいのだろうか。
その優しさに浸ってしまっても、良いのだろうか。
この世界に、いてもいいのだろうか。


折角だから、自分も何か願っておこうか。
どうかーーー。








変わらずにまた今日が来る。
けれど昴の世界はもう、色鮮やかに彩られていた。


あれからもう、1週間経つ。


先週と比べて格段と気温は下がり、遂には吐息が白い靄になるほどだ。
あの時の様に、黒いマフラーに顔を埋めて小さく小さくなっていく。


「おっはよーすっばるー!!」


「がっ……!!」


バシンと背中を思いきり叩かれた。
一瞬呼吸を忘れる。


「お、おはよう……朱璃。朝から元気だねホント。」


「ふふん。それだけが取り柄ですから!!」


「胸張って言うことじゃないと思うけど……」


「いーのいーの!!細かいことは気にしない!!ほら、いこいこ!!」


「……うん。」


差し出された手を、握ってもよいのだろうか。
相も変わらず昴はそんなことを逡巡する。
こんな僕でも。
君の傍に、いていいのだろうか。


けれどいつだって、昴が握るより早く、朱璃がその手を掴んでしまうのだ。


「……?どうかしたの?」


「いや……なんでもない。」


いつか、自分も。
そんな夢を想像して、昴は一人頬を緩めた。



-夢見るディフェクティブ-


(せめて、夢くらい抱かせて)


「昔から、奇数には強いんだよ、おれ。」


「へぇ…それで、何が言いたいわけ?」


「まーまーまー!!いいじゃんいいじゃんっ!!もう俺が出すからさ!!」


「ちげぇんだ……ちげぇんだよヨシミツ。おれは昔からスッゲー奇数につえーわけ。だからおれが負けるっつーことはこいつのイカサマ以外ありえねーっつってんの。」


「はぁ……あんたさ、恥ずかしくないわけ?小学何十年生が駄々こねてんだよ。」


「あ、アケミも煽んないでよっ!!もう俺が負けってことでいいからっ!!な、ケンゴもいいだろそれで?こんなとこで喧嘩とかつまんないもんな?な?」


「誰が小学生だこら。それとなヨシミツ。これは勝ち負けの話でも奢るのが誰だとかいう話でもねーんだよ。女だからっつーだけで?こいつが男の勝負でイカサマしたってー事実だけが?おれはゆるせねーっつってんのよわかるかなアケミちゅわ~ん?」


「だからしてねーっつってんだろがっっ!!あぁーもうっめんどくさいっ!!ヨシミツ、アタシ帰るわ。驕りとかもういいから。そこの馬鹿連れて帰って。」


「へぇえっ??いやいやいや……あ、わかった、わかったよ!!もう一回戦だ!!アミダくじ!アミダくじにしよう!」


「ほぉ。いーだろう。てめー、アミダがどれだけ公正か解るか?お?わかんねぇだろうな。それはな、ヨシミツがアミダをつくるからだ。ヨシミツが作ったアミダで俺が負けたなら?おれは潔く身を引くぜ。おれたちはいつだって3人。っつーことは最強なのはおれ。これで負けたら、おれは3となんの縁もゆかりもないっつーわけよ。どーだこら?」


「あっはは……俺が作んのね……了解。」


「いまいち何ほざいてんかわかんないけど、とりあえずあんたの頭がおかしーってことだけ認めて貰うわ。あとニホンゴ。…ヨシミツ。線は3本よ。アタシら二人が選ばなかった線があんたの線で。」


「あははは………はぁ。……出来たよ。」


「さすがしごとがはえーなヨシミツ。おらアケミ選べや。レディーファーストだこら。」


「ふん。負ける気しないわ。あんた、外したら土下座ね。」


「はいはい……もういいから選んでください…」


「じゃあアタシ右」


「俺は真ん中だ!!男はやっぱセンターよ!!」


「じゃあ、俺が左ね……えーーっと。」


「あ、ヨシミツの勝ちね。おめでと。おらクズ。土下座だどーぉげーぇーざぁっ!!」


「あ?なんでオメー勝ってねーのにエラそーなんだ?お?」


「……」


「はぁ??あんたが負けたら土下座っつったんだろがっ!!3分前の記憶もねぇのかよ!!」


「は?俺テメーに負けてねぇし?っつかヨシミツが勝ったし?俺が言ってんのは、勝ち負けの話でも結局誰が俺に奢るかの話でもねぇ。テメーが勝ったわけでもねぇのに?なんかめっちゃ無い胸張って?土下座を共用してくるゲスさについて言ってるわけよアケミちゅわーん?」


「………」


「あっのさぁ。そろそろ付き合いきれないんだけど。アタシ、昔っからあんたのそういうのムカついてたから。いい加減大人になってくれないとさ。」


「は?オメーよかまともに生きてっから?今時専業主婦とかマジうらやまなんですけど?」


「うっせーな。あんたが思ってるよかしんどいしつれーよ。」


「は??マジ何言ってるわけ?頭イッテるわけ?この期に及んで贅沢いうわけ?」


「うっせーな!!じゃあやってみろや!!」


「あぁああああああ!!!!うっせーんだよピーピーピーピー!!お前ら幾つになったらまともに会話出来るよーになるんだよ!!つーかアミダもジャンケンも勝ったの俺だろが!!今回だけじゃねぇぞ!!毎度金立て替えんのも酔い潰れて家送ってんのも俺だからな!!大体話のスケールが小さすぎて怒り通り越して悲しくなってきたわ!!」


「よ、ヨシミツ……悪かったって、な、俺が悪かったって」


「うるっせーわこのスットコドッコイっ!!そーだよ!始めっからお前が囀ずんなきゃこんなめんどーな事になっていねーんだよ!!」


「うぅ…す、すまん……」


「ま、まーまーまー!アタシもちょっと言い過ぎたとこあったし……」


「ちょっと?ちょっとっつった今?ちょっとっつった今??…ちょっとっつった今!??はぁああああああああああっっ!??どこがだよ!!120%言い過ぎてたよ!!俺は言ったよ止めたよ制止したよ!!抑制したよ!!ひとっつもきいてねーじゃねーか!!」


「う、うん……ごめん、そうだった!」


「そうだっただぁあ!?あぁあああああ!??3分前のことも覚えてらんねぇのかっつったの君じゃありませんでしたかぁぁあああ!?」


「っ、はい……そうです………」


「よ、ヨシミツ…ホントごめんってマジ俺ら浅はかだったって。」


「うんうん……超反省してる。だからそんな怒んないでよ。」


「あぁあ!?謝ってすむ問題だったっけかこれ!?ねぇ!?なんかあるよな!?俺がなんで怒ってるかわかってるのかってんだよホントによぉ!?」


「わ、悪かったってばぁ……うぅ……そんな怒鳴んないでってばぁ………」


「お、おおおおい泣くなよアケミ、な!?な!?わかった!!わかったよ!!俺が二人分おごっから!!ヨシミツも、な!?な!?」


…………



「あれ、昔っからだけど、ずっとあのままで大人になっちゃったんだね」


「10年ぶりに見ると、懐かしくもありヒヤヒヤもんでもあるな…はは」


「いいから誰か止めてこいよ!」


「いや、もうそろそろ……ほら、アケミ泣いちゃった。」


「でケンゴが慰めて宥めて……でこぼこ過ぎんだろほんと。」


「おーい!!お前ら!!そろそろおいてくぞー」


………







「もう、おぼえてないでしょう」


「そんなわけないだろう、借りた恩は返す主義だぜ俺は」


私の持ってる刀は、口が減らない。
けれど、何の力もない私が弱肉強食のこの世界で生きていくには、必要な力である。


「はい、それじゃあもう一踏ん張り、宜しくね!!」


「へいへい」


私が掲げた500円硬貨。それは仄かに白く輝き始め、辺りを照らした。


光の中から、無愛想な青年。

いわく、刀の魂みたいなものだそうだ。
名は神居(カムイ)。

そいつは私をちらっと見、私の手から硬貨を抜き取る。

その硬貨を口にいれる。

バキバキ、モギュモギュ。ゴクン。

すると、刀そのものが輝き始める。

私はそれを確認し、鞘から抜き取る。

刀身は黄金色に輝き、そのオーラで幾重もの光の波を作った。


数歩歩けば背後から、空から、茂みから、至るところから現れるそれらは亜仁魔(アニマ)。俗に精霊と呼ばれるそれらは、ある日を境に眠りから目覚め実体を持ち、人間を襲うようになった。


「誓いは簡単だ。俺を呼び、働きに対する対価を払え。」


かつて私の住んでいた街は、溢れ返る亜仁魔によってその日消滅してしまった。命からがら逃げた山奥の神社で声を発したそれは、硬貨を欲した。


「もう暫くの間、飲まず食わずみたいなもんだ。それに、お前も死にたくないだろう、手を貸すぜ。安心しろよ、借りた恩は返す主義だぜ俺は」


口車に乗せられた様なものではあるが、結果、これのお陰で私は生き長らえた。こいつは従順とはいかないまでも、まぁお金のあるうちは私を殺しはしないのだろう。


「えいっ!!えーいっ!!」


力任せに振るったそれは、私の意識の外で私を操る。
縦横無尽に暴れまわるそれを手離さないように、私はよくわからない声を出して叫んだ。


「もうちょっとかっこつく感じにならないものなのか…」


真っ二つにされた亜仁魔の魂は消滅する。
いわく、死とは無でもなく極楽でもなく、また天国でも地獄でもない。転生の環へと戻るのだそうだ。


ーーー。

「俺に誓いを立てているうちは、俺はお前を守れるが、それ以外の時、つまり就寝、水浴び、食事…例えばそんな時に護身術の一つでもあれば、どうにでもなるだろう。お前自身がやらなければいけないことは山ほどある。それを、教えてやる。お前、生きたいよな。」


私は首を縦に振った。何度も。
それがはじまりーーー。


「ん~……いない。」


「そりゃぱっと行く?っつって行けちゃったらつまんないだろう。探索も重要だぜ、ろーるぷれいんぐは」


「はいはい…そりゃよござんしたね。」


鞘に収まった神居をポンポン撫でる。基本的にお金……それも硬貨でなければ力は発揮出来ないそうだが、腹を満たすだけならば、何でもよいらしい。しかも、食べたものの内容を記憶出きるそうだ。暗記パン機能と私は呼んでいる。それで昔与えたゲームの攻略本や雑誌の内容を得て口達者に宣うのである。


一般的な人間は、亜仁魔と闘う術を持たない。どういうわけか実体化した為、重火器や、拳で殴ることも可能ではある。だが、それでも闘うにはあまりに人間は無力だ。そこで私は現在、亜仁魔狩りをして報酬をいただく、ということを生業にしている。金銭が重要ではないが、神居の力を借りる為に必要なのだ。相互扶助がこの世の理なのはいつだって変わらない。


そうして今回は、とある山の麓を襲う亜仁魔を駆除しに来ている。以前訪れた時はもう少し木々がざわついていた気がするが、今は随分と静かだ。山がやつれている、という表現が正しいかはわからないが、まぁそんな感じだ。


「おい。誓いを寄越せ。もう奴のテリトリーだ。」


「ほいっす!!」


硬貨を取り出す。

掲げた硬貨はすぐになくなり、刀身が輝きだす。

それに呼応するかの様に亜仁魔が現れた。

今回のターゲットは、山を統べる物の怪、天狗だ。伝承で語られる天狗は知性高く、山に迷い混んだ人間を化かす事で知られる。外見の特徴として鼻が高く、背中の翼で空を舞う。
本来は自分のテリトリー……つまり山を侵さなければ害はない。けれど今回、こいつは街を襲った。彼らの持つ扇が風を起こし、竜巻の様な強風が街に被害を出したのだ。


「汝、你要什么有什么?」


ふいに、語りかけられた。顔を上げると、そこには修験者の出で立ちをした、鼻の高い赤面の男。
昔話で聞いたことのある格好そのままに、天狗が現れた。


「い、今なんか喋んなかった!?」


低く唸る様な声で、確かに聞こえた声。神居に問えば、なにも不思議じゃあない、と返される。


「你失去了什么?」


「ま、また……」


「知ったことか。ほら、くるぞ」


天狗が振り上げた扇を振るう。突如突風が私達を突き抜ける。


「お、おぉお!?、おっひゃああっ~!!」


踏ん張っていた足が中に浮く、片足が浮いてしまえば後は造作もなく体が浮き上がり、私は情けない声をあげて吹き飛んだ。


「何やってんだ!おい、俺を離すなよ!?」


「お、おぉおおおお、おぅぐうっ!?」


なんとか神居を手離さずにすんだものの、後方の大木に頭をぶつけた。一瞬星が見えた気もするが、大事に到ってはいないので気にしない。


「…ホント、しまりのないやつだ。おい、次奴が扇を振るタイミングで俺を地面に突き立てろ。なんとかしてやる。」


「た、頼もしいですぅ…あたた」


ゆっくりと空を舞い、天狗は再び私達のもとへ来る。


「我……想不会恢复到原来的了!!」


天狗が吼えた。

その声は酷く悲しく聞こえたが、やはり何を言っているのかは聞き取れなかった。

天狗が扇を持たない右手を翳すと、無数のつぶてが飛んでくる。


「たーっ!!」


私が思った方向とは逆に切っ先が向かう。

結局私には神居を手離さないようにすることしか出来ない。

がきんがきんと神居がつぶてを払う。

後ろに流れていった残骸は周囲の木々にくぼみをつくった。

止まることのないつぶての嵐に怯むことなく振られる刀。

上下左右に揺られる私。


「お、うぉっ!?おぅいぉおおっ!?」


「おいうるさいぞ!歯ぁくいしばってろ!!」


天狗が左手を掲げた。


「くるぞ!!」


「おぉぅぅいぃっす!!」


天狗が扇を振るう。

突風が到達する前に、神居を地面に突き立て、吹き飛ばされないように足に力を込める。


「おー!!かっくいー!!」


黄金色が刀身から大地に広がり私の周囲半径2メートル程を囲う。刃のような風が私達を襲う。けれど、風は黄金色の障壁に阻まれ、私達まで届かない。


「おい、俺を引き抜いて振れ!!」


「人使いあっらいなもー!!でりゃあ!」

風が止んだその瞬間に神居を引き抜き、その勢いのまま横に一閃。すると、刃の先から銀色の、風を切る衝撃波が天狗に向かっていく。


「な、何これ凄い…っ!!ゲームみたい…っっ!!」


思わず口からそんな言葉を溢すと、その衝撃波が天狗を薙いだ。


「我、我、我……不知道你是不是有什么我喜欢的…………是否疼痛多…………阿亜嗚呼嗚呼!!」


天狗はまた意味のわからない言葉をこぼし最後、雄叫びをあげて消滅した。


「…か、勝った?」


「言ったろ?借りた恩は返す主義なんだよ俺は。」


「ってゆーか、ああいう隠し技みたいのあるなら言ってよね!!そしたらもうちょい上手く動けるのに」


「敵を欺くには……って奴だよ。つーか言ったって変わらんだろーが。」


「むむ、そんなのやってみなくちゃわかんないじゃんか!」


「そのうちな。」


先程より一層寒々しくなった山に、一人の足音が響く。
それにつられて急に、虚しくなった。


「ねぇ……あいつは、天狗は、何を叫んでたのかな。」


ふと、消滅した亜仁魔を思う。言葉らしきものを話した亜仁魔は、今まで出会ったことがなかった。言葉だったのか聞き取ることも、理解することも出来なかったそれが、もしも苦しんでいて、私達に救いを求めていたものだったとしたならば。


「それは考えても仕方がない事だ。それに、俺達が切った。今頃は転生の準備で忙しいだろうよ。辛かった記憶も、苦しみの根源も、俺達が切ったんだよ。それでいいんじゃねぇか。」


「……ふふ、たまーに、優しいよね。」


「あほか。次の獲物を狩る時に躊躇されちゃ困るからだよ。」


私の持ってる刀は、口が減らない。
けれど、何の力もない私が弱肉強食のこの世界で生きていくには、必要な力である。
……そんでもって、いい奴だ。


もうすぐ陽が暮れる。
今回はそれなりの報酬が期待出来るだろう。
晩御飯は何にするか、そんな他愛のない話をしながら、私は今日も何かを切り捨て生きていく。




ーーー拝啓。


前略。いや、略しちゃうのかよ(笑)
……はい、すいません。ご無沙汰してます。
手紙でもふざけちゃう僕です。

お元気ですか?
特にこれといって大きなトピックスがあるわけでも、
この手紙が君に届くとも思ってはいないのだけれど、
昨日の夜、君が夢に出てきたものだから、
ついつい調子にのって手紙を書いてしまいました。

これ、もしも君が引っ越していて、違う人に渡ってしまったら凄く恥ずかしいなぁ。
まぁ、あえて電話ではなく、こういう形をとる当たり、
やはり僕はシャイでウブで純情可憐な男の子☆
なんでしょうねきっと←笑うとこですよww

いや、もう男の子って歳じゃあないね。そもそも。
体調にはお互い気を付けましょうね……。
そろそろ笑い事じゃあありません T_T



もしも、君がこの手紙を読んでくれて、
かつ、君がこんな僕の気紛れに付き合って
返事を書いてくれる優しい人だと信じて。


君は今、幸せですか?
夢の中に出てきた君は、あの頃と寸分違わない
背格好をしていたものだから、ちょっと吃驚です。
あれほど気にしていた、背は伸びましたか?
そのくせ皆より少しだけ大きい靴のサイズは、
成長を止めてくれましたか。
今、君がどんな姿をして、どんな声で、
誰の名前を呼び、何を愛でているのか。
忘れていた感情の栓が外れると、
溢れだしてくる様々な感情が抑えられず、
ぶっちゃけ少し困ってます(汗)



簡単にですが、僕の今を一応…。



まだ結婚はできていないので、きっともう
そんな機会は訪れないと思ってます >_<
でも、好きなことが、仕事になりました。
宣伝ってわけじゃあないけれど(笑)
絵を描いて生活しています。
今度ヨーロッパの方で展示会の様なものを
やりにいってきます。自分で書いていても、 
これ、なに書いてたんだっけ?ってものが
多いのですが、そこがいいんだそうですよ。
なので今後は、よくわからないものを
どんどん書いていこうと思います(笑)
なんて、内緒ですよ?
怒られちゃうんで……


おっと、書きはじめるとあっという間ですが、
ちょっとだけ長く書きすぎてしまいました。
道理で左手が痛いわけです。
万年筆はやっぱりかってが違うなぁ…(笑)


きっと、もう会うことは難しいと思いますが、
もしも、僕のことを、この手紙を見て
懐かしいと感じてくれているのだとしたら。

どうかまた、夢で会いに来てください。


10月12日。
少し寒かったのでホットミルクを飲みながら。







この世界は、と、今回はあえてスケールを大きくして話そうではないか。

そうこの世界は、人間の主観や価値観で限定的な法則や方程式を形作っている。

たとえば君は、時間を遡ることが可能か?

たとえば君は、空を飛ぶことが可能か?


おそらくどちらの問いも、イエス、ノーの人間がいるのだろうと思う。

時間なら、日付変更線を越えれば自由にはならないが数値的に戻ったことになるし、空を飛ぶのだっていまなら飛行機やヘリコプターがあるだろうからだ。

だがね、この程度結局人間の主観と価値観なのだよ。

……どういうことかわかるかねそこで寝ている……佐々木くん。え?君は考えたことはあるかい。君が寝ている間に、もしも回りの人間が起きていたとしたら、君は人より後ろの地点にいるのだよ。たとえば寝坊をして、もう今日はめんどくさいからと君が怠惰に過ごした1日。その間に皆は君の知らない技術を身に付け、君の知らない知識を獲得し、そして私から評価を授かれる。……出ていきなさい。眠るならそんな窮屈なところじゃあなくて、布団の中の方がいいだろう。病欠席。佐々木……。

はい。ではクズの相手はこのくらいにして、本題に戻ろうか。例えば鳥は、我々よりはるか昔から飛ぶことができている。その鳥に、同じ質問をしよう。…答えは得られないね。これは、鳥が空を飛んでいると、私たちの主観が、価値観が認識して成立しているからだ。私達は、私達を人間と認識することによって、未来永劫人間なのだ。というこの答えこそが、限定的になるひとつの原因なんだがね。では、えー……野田君。野田くんはこの話を聞いているから、この知識は得たわけだ。そこでこんな質問をしてみようと思うんだがいいかな??




「君は果たして、そこに存在しているのか?」






いやー……すっげぇ眉間に皺の寄る講義だったわー……つかマジお前さwクズとか言われてwチョーかわいそうなんだけどwwあとで謝りに行けよ?そういうのもしっかり評価するらしいからねああ見えて。いやでもこういう特別講話とか、マジで年4回とかきついわー……1個でも落としたらだめらしーし。謎だよなうちのキャンパス。いや、ぶっちゃけ俺もあんときふられてマジ焦ったかんね、今日の飲みの予約してたからさ、マジでウマミミヒガシカゼだったかんねww…あ、でさ、今日来るべ?……おっまえさー!!もうさーー!!ちゃんと女子もいるっつーのあたりまえだっつーのぅん!!いなきゃお話になんないでショーよ!!まぁぶっちゃけ可愛いかと聞かれるとうーんな感じなんだけどさ、なんと縁あってお嬢様学校の娘達との宴だから、いろいろおいしいかなーっつってね!!まーそれなりにきたいしててちょ!!……お前このあとなんだっけ??……おぉ、そっか。だと昼だな次会うのは。じゃあの。




凝り固まった思考は、恐らく誰にも理解されないのだろう。もはやこの男は、人間の枠を越えようとしているのだから。俺だってだてに長生きしてねぇが、猫又にしちゃあ若ぇ方だもんで、ちぃとばかしなめられるんだが、その根元ってのが、人間に飼われていた日々をまだ忘れられねぇでいるからかも知れねぇ。もうずいぶん昔だ。あの頃はもうちょい生きやすかったってもんだが、まぁ俺も飼い猫のふりして長ぇしなぁ。生活の要領は大体心得ている。人間を見てるのは楽しい。しかし今回のこの男はヤヴァイ。齢30そこそこにして、真理に触れちまおうとしてやがる。自らの目線でそこを崩せるとはね。まぁ、多少は理解できるもんだよ。誰だって何となく理解してんのさ。この世界に必要なものは何もない。我々は自我を持ってしまったがために主観を手に入れた。何のために?そう、それこそがまさに、創造主がこの世界に唯一与えた方程式。「生きる。」誰が一体生を拒絶する?飯だってくうだろ。死んでしまうもんな。自殺ぅ??あれは「確立した個人を形成出来なかった個体の本能的生命活動」だよ。

生理的欲求
安全の欲求
所属と愛の欲求
承認(尊重)の欲求
自己実現の欲求

これらを満たすように生物は行動するんだが……まぁ、例外はあるが、基本は上2つ。で、知性や理性のある生き物は下に増えていく。基本的に人間は5つ全てが満たされていないと幸福を感じない様に出来てる。そして人間にはライフステージってのがあって……お、わるい、迎えだよお前さん。どうだい、暇潰しくらいにゃなったろう??まぁ、きっとこの記憶はもうのこんねぇだろうけど、あの世でも、達者でな。



俺は、ただ惰性で生きていく日々が好きだ。愛してるといっても過言じゃあない。それを得る為なら他の何かなど惜しまず捨てることが出来る。クズと呼ばれ周囲からこけにされようと、実際には俺よりもう少しクズの人間に言いように扱われてもだ。俺がその日々を愛しいと感じるためならば、あぁ、いいだろう。少年よ俺を指差して笑え、ヒソヒソとどれだけ気持ち悪いかを話し合え。俺はそんな1日でさえも幸福であると叫ぼう。愛はここにある。お前たちには理解できないであろう、アイが。逆に問おう、いま君たちが行ってる苦行の数々。それらは、この平穏な日常を踏み抜いてまで歩いていきたい道なのか?唯一時の快楽の為に金を捨てそれを愛と呼び、得体のしれない子を育んで、それに自らの一生を注ぎ込むのが幸福か!!愛か!!お前達はきっと考えもしないだろう!!想像もしないだろう!!お前達のどうしようもない人生を支えるために、果たしてどれ程の生物が理不尽に殺され、意味もなく踏みにじられているか!!………俺にはこれ以上の幸福を求めることは出来ない。いや、これが幸福なのだ。最幸だよ。俺は。







「お帰り、お兄ちゃん。学校、どうだった?」


見慣れたドアを開けば、いつも通りに俺を出迎える妹。顔は似てない。というよりも、俺だけが一人、この家族から浮いているのだ。

「あぁ…」

「もう!!それじゃあ答えになってないじゃん!!ってあ、ちょっと!!」

鬱陶しい。よく通るあの声が耳障りだ。適当に相づちをうち、階段を上る。家は親が昔から共働きというのもあって、こいつは随分と俺になついていた。が、18も過ぎて兄弟が揃って出掛けたり、趣味で盛り上がる、というのはどうなのだ。そろそろ自分のプライベートな時間を大切にすればよいものを。面倒くさい。

階段を上って直ぐ左にある6畳間が俺の楽園、理想郷。
部屋に入り、自分で取り付けた鍵をかける。この空間だけは、侵されてはならないのだ。昼も夜も朝もない、カーテンで閉ざされた一室。例えばこれを鳥かごと形容するのなら、これはきっと方舟だ。俺は選ばれた。再生へと辿る道へ。光差す未来の元へ。選ばれた人間なのだから、まわりと違っていようとなんら間違いはない。当然なのだ。ズレていて、当然。

少しじっとりとした感触の布団に潜り込む。それはどんな快楽よりも俺の心を満たし、安息の地へと導く。あぁ、生きるとは、つまりこういうことなのだ。俺はこのまま夢を見続けられるのならば、一生を眠り過ごしていよう。やがて、血液が体の中心へと集まっていく。俺はそのまま導かれるままに眠りへーーー。









きっと、誰もが孤独という感情を背負ってる。
その孤独を埋める為に求めあい寄り添いあい、互いの熱を感じることで満たされる感情。

そうやって満たされている誰かを見ていることが、私にとっての幸福。人は、ただ自らを尊ぶことを選びがちだ。だけど、想像してみてほしい。ただ無感情に生を得て、無表情に解き放たれた世界を意味もなく生きることに、一体なんの価値があるのだろう。君が優しくなるだけで、私が優しくなるだけで、世界が意味を得るのなら、それはとてもとても幸せなことだと思いませんか?だから私は、ただ孤独である君のために生きることで、幸福を得るよ。

「お帰りお兄ちゃん、学校どうだった?」



それが、この世界で唯一の---。





















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