今、貴方を思うと眠れないのは何故だろう。


ーーー違うよ。眠れないのは、必ずしも貴方を思っているからじゃない。もちろん、ひとつの因果ではあるのかもしれないけれどね。


それじゃあ、言い方を変えよう。今、眠れないのを貴方を思うからということにしたい。


ーーーそれは少し論点がずれていないかな?それは君の、唯の欲求だよ。仮説を立てるときは主観を用いてはいけない。最初にそれを、私は君から教わったと思うが?


うーん、では、こういうのはどうだ?
今、貴方を思うと眠れないのは何故だろう?
ただし本人の体調、健康状態に何ら異常はなく、無限時間中のある一点においてのみ検討する。また、未来に起こり得る事象はこの問い中で考慮しない。……えーとあとは……



ーーー支離滅裂だよ。たしかに、ここ最近思うところがなかった訳じゃあないが、だからと言って結論を急ぐのは早計じゃあないかな?それに君は、「そういうの」、もういいんだろう??


ふぅ……やれやれ、隠し事はできないな。…ホントは、迷っているんだ。というよりも、怖い。何故か思考の中心、核心へ向かおうとすると、その瞬間突然目の前が真っ暗闇になる…だから証明したい。証明は先を照らす灯火だ。こういうことがあって、こんな理由があって、その結果が…


ーーーその結果が?


…………やめよう。なんだか馬鹿らしくなってきた。


ーーー錯覚、だからね。そう思わなければ、誰とも生きていけないと。


……たまに考えるんだ。もしも自分が、水槽の中の脳だったら、どれだけよかっただろうか、ってね。


ーーー同じさ。君に等しくその人格を与え、知識を与えているのだから。君は、世界が時間を収束し、新たに生まれたその世界の先でも、同じ問いに苦しみ、同じ感情に苦しむよ。


それに、選べないよ。その権利がない。そもそも。


ーーー君はまた荒唐無稽な事を……君はそれじゃあ、何て言う生き物なのかな?名前、姿、形。それらは種族を越えないよ。それこそそれらは、因果律の中で解答を得ることの出来ない錯覚と矛盾だ。君は、人だよ。等しく。そこに生物学上の格差はない。もしあるとすれば、それは勘違い、というやつさ。


……やめてくれ。


ーーー何をやめればいい??思考を?会話を?鼓動を?


………そんな風に……言わないでくれ。


ーーーいいのかい?それで本当に?あえて私は何度でも問おう。君はそれで、本当に幸福足り得るのかい?君の抱くその感情は、本当に錯覚等と言う俗語で片付けてしまっていいものなのかい?他の全てがなくてもいいと、思えなくなったのかい?


………私は……


ーーー今日はここまでだ。では。


……私は。





私はもう一度、鏡を見た。
そこにいるのは、果たして。