「え、いや…ごめん、その。そういうのはちょっと…わからないんだ…」
「…そうですか…わかりました。さよならっ…!」
あぁ、また僕のせいで誰かが傷付いてしまった。これで今年何人目だろう。好きだと言ってくれることは嬉しい。だが、それで僕にどうしろって言うんだ。大体、見ず知らずの人間に、そんなことを言われても判断に困る。
「んなこまけーことはいーんだよ。てきとーに付き合っちゃえばてきとーに仲良くなるっしょ。」
「お前なー。僕は真面目に…」
「あーはいはいわかってるわかってるさ。でも結局そんなもんさ人間なんて。恋愛なんて。お前は美化しすぎなんだよ。想い合って惹かれあってそしてやがて結ばれる。いや、間違ってないし理想さ。ただ結局、理想は理想で、大体は第一印象がものを言う。人間は殆どの情報を視角から得ていて、更に性衝動は錯覚だ。なら騙されるのは必然だし、寧ろ正しい。どうだ、参考になったか?」
目の前で親友は高らかに笑って恋を説く。それでもし上手くいかなかった時に、つまり早い話あとだしジャンケンでノーを伝えた場合。やはりそれは人の気持ちを弄んだということにならないだろうか。そして結果自身の評価を下げてしまうだろう。
「そんなこと言ってー、誤魔化してるんでしょ?言っちゃえばいいんだって。他に好きな人がいるって。」
「…いやだよ、それは。もしその子が悪い子だったら、あいつにまで被害が出るかもしれない。」
そう、そうだ。あいつの事が、好きだと言ってしまえば、いい。いつのまにか仲良くなったバイト先の彼女にそう言われても、先ほど告げたように何かあったときに、しあいつに迷惑が掛かるかもしれない。それは避けたかった。可能性さえ、あってはならない。だから僕は、彼女に近付きさえしないのだ。
「…難儀な性格だね。」
「はは、自覚はあるよ。」
本当に愛しているのなら、当然考えることだ。自分自身がどうなろうと構わない。傍にいれなくてもいい。それは己の欲求だから。あいつの幸せを第一に考えた結果、僕と一緒にいない方があいつは幸せになれる。行き着いた結論、辿り着いた信念。
「まぁ、僕も昔同じようなこと考えていたからわかるよ。」
でもね、とかつて部活内でライバルとして争った、今ではすっかり相談相手になってしまった男は続ける。
「ようは、傷付けてしまうのが怖いんだ。自分のせいで。だから触れることも傍にいることも、想うことさえ誤魔化しているんでしょ?」
「…その、気持ちがないといったら嘘になるけど。」
「大丈夫。あいつもきっと、君を待ってるさ。言ってらっしゃい。傷付かないように守ってあげて、傷付けたら癒してあげたらいいんだ。」
なるほど、やはりかつてのライバル。似て非なる思想だ。そしてそれは、僕の求めた答えに限りなく近かった。
「それで漸く私のところへ来たのね。」
「…あぁ。うん。ごめん。」
「こんな人気のないところに呼び出して?チョー迷ったんですけど。」
「…ごめん。」
「ま、あんた不器用だからわかってたけどさ。」
「……」
「で、喋んないし。難儀ね。昔からずっと。」
「…ごめん。」
「………うがーーー!!もうっっ!!」
らぶれす。
(ふたりはまだ、愛を知らない。)